平成20年3月27日 沖縄県にある石川石炭火力発電所と世界初の海水揚水発電所である沖縄やんばる海水揚水発電所を視察してきました。
J-powerとは?
・ 卸電気事業者で、全国67箇所(2007年6月末現在)で発電所を運転、送電線は、亘長2400kmにのぼる
・ 海外では、47年間にわたり、途上国を中心に61カ国、地域278件にも及ぶ技術協力事業を実施
・ 電源開発促進法によって設立されましたが、2003年10月2日、廃止され、2004年10月、東証一部に上場し、完全民営化
・ エネルギーと環境の2つの分野を中心として、世界を舞台に幅広く事業を展開し、地球の未来のために多くの人々にパワーを届けたい
・ 設備出力では、九州電力、東北電力に次いで、第6位!
・ 売り上げの大部分は、火力(57%)と水力(21.5%)
石川石炭火力発電所
・ 石川石炭火力発電所は、100%石油に依存していた沖縄の電力供給の脱石油化、電源の多様化を図るため建設された沖縄県初の石炭を燃料とする火力発電所
・ 楠田所長、永橋所長代理に案内していただきました。ありがとうございます。
・ 1、2号機あわせて沖縄の電力設備の15%、電力需要の約1/4を賄っている
・ 豊富で安価な海外炭の活用
1.石炭から電気へ
・ 主に、オーストラリアや中国から原料を輸入
・ 船で運ばれてきた石炭を揚炭機、チューブ形式のベルトコンベアで貯炭サイロに貯蔵
・ 微粉炭機で細かく砕き、粉末にし、バーナーによって燃やされ、その熱を使い、ボイラで水を加熱して高温・高圧の蒸気をつくります
・ 高温・高圧の蒸気の力によって、タービンを高速回転させ、発電機を回して、電気を起こします
2.発電所のしくみ
3.環境を守る
・ 電気集塵装置:ボイラから出る煙は、ばいじんを取り除きます
・ 排煙脱硫装置:煙の中の硫黄酸化物を化学反応させ、石膏にして取り除きます
・ 統合排水処理装置:排水をきれいに処理して放流します
・ 石炭灰有効利用:灰は、セメント原料や農業及び建設資材として利用
・ これから、CO2を地中に埋める研究が行われます
沖縄やんばる海水揚水発電所
海水揚水発電とは?
・ 夜間の安い電力を利用して、海水を汲み上げ、電力需要の多い昼間に、夜間に汲み上げた海水を利用して発電する仕組み
・ 電力の負荷平準化。特に、原子力発電所など、運転を継続しなければならない施設の有効利用に適している
1.概要
・ 最大出力3万kWの発電を行う世界初の海水揚水発電所
・ 上部調整池と海面との有効落差136m
・ 1981年から、経済産業省は、基礎的な試験調査を行った後、実証プラントとして建設し、2003年、5年間の試験運転を終了し、2004年から、電源開発(J-power)が設備を引き継ぎ、運転・保守を行っております
・ 石川石炭火力発電所で、遠隔操作をおこなっている
2.海水揚水発電の必要性
火力発電部 石川石炭火力発電所 海水揚水担当の浜田氏に案内していただきました。ありがとうございました。
・ 日本の電力需要は昼夜の差が大きく、揚水発電等による負荷平準化が必要
・ ピーク需要対応の供給力として河川を利用した揚水発電所が多く設けられてきましたが、地形、地質、及び、河川環境面から立地点の制約
・ 日本は四方が海で囲まれ、海岸線の地形が急峻なため、海水揚水発電には有利
・ 下部調整池の築造が不要
・ 火力原子力発電所などの大規模電源および電力需要地域の近傍に立地可能なため、送電系統運用上の利点
3.課題
・ 上部調整池から地盤への海水浸透防止対策および地下水への海水混入防止対策の評価および海水漏水見地システムの検証
・ 海生生物が水路、水車等に付着することによる発電・揚水効率の評価
・ ポンプ水車などの高水圧・高流速下で海水に接する金属材料の腐食
・ 高波浪時における安定した取水・放水の確保
・ 上部調整池内の海水飛散による周辺植生、生物等生態系への影響評価
・ 海水利用に伴う放水口付近に生息する珊瑚等海生生物の影響評価
4.新技術
① ゴムシートによる遮水と海水の検知・復水システム
・ 上部調整池には、水密性、変形性および耐候性に優れたEPDM(Ethylen Propylene Diene Monomers)ゴムシートによる表面遮水方式を採用
・ この採用にあたっては、以下のような試験が実施
★ 材料の基本物性・強度試験
★ 材料のオゾン・紫外線による劣化試験
★ 海生生物(フジツボ)付着による機能劣化試験
★ 繰り返し水圧による接着部での水密試験
★ 強風(台風)による安定性能確認試験(大型フィールド試験)
★ 施工性の検証(大型フィールド試験)
② 水路
★ 水圧管路
・ 海水に対する耐食性
・ 試験結果から塗装鉄管に比べて海生生物が付着しにくいなどの理由で、岩盤埋設式水圧管路に世界で初めてFRP管(強化プラスチック管)を適用
★ 放水路
・ コンクリート巻立構造の放水路は、防食性からエポキシ樹脂塗装鉄筋を、放水口には耐摩耗性および防食性から、特殊セラミック塗装を実施
・ 放水口スクリーンスクリーンについては、水圧管路と同様にFRP管を使用
③ ポンプ水車発電電動機
・ 発電と揚水の両方を1台の発電機で行っている画期的なシステムです
・ ポンプ水車のランナーおよびガイドベーンの材料は、モリブデンを数%添加した改良型のオーステナイト系ステンレス鋼を採用
・ 発電・揚水時の高効率化運転を目的としてGTO方式による可変速揚水発電システムを採用
・ 従来の発電システムは、ポンプ水車・発電電動機は一定速度で運転され周波数調整は、発電運転時のみ可能でしたが、可変速揚水発電システムは、発電運転時および揚水運転時共に周波数調整運転が可能
・ 揚水時には揚水量の調整により電力系統へ与える影響を小さくし、発電時も任意の落差と出力に対して高効率運転が可能
5.環境保全対策
J-Powerが最もプロジェクトで力を入れたのが、環境対策です。
調整池周辺の陸上部には、ヤンバルクイナをはじめ、16種の生物学上貴重な動物が生息し、また、放水口周辺の海域には、サンゴが広く分布していることから、これらの保護が最重要課題となったのです。
① 小動物の保護
・ 工事期間中は、侵入防止柵を工事区域外周に設置し、さらに道路側溝には、カメ、雛鳥などの小動物が転落してもスロープを利用して自力で脱出できる構造の傾斜側溝を採用
② 濁水処理
・ 工事区域は赤土の土壌で、降雨時に海域へ流出し、珊瑚等に影響を及ぼすため、濁水貯留池を設け、全量集水貯留し、濁水処理プラントで清浄した後、近隣の沢に放流
③ 植生の保護
・ 土地の改変区域と森林との境界に風害から既存樹木を保護するため、幼木を植栽
・ 道路等の法面の緑化は、地山硬度に応じて種子吹付け、在来種であるイタビカズラなどの地被類の植栽
・ 土捨場、仮設用地等の土地改変区域については、イタジイ等、周辺森林と同種の苗木を植栽
④ 流速の低減
・ 発電放水によるサンゴへの影響を抑制するため、放水口外周に消波ブロック(計900個)を据付、発電時の流速を10cm/s以下に低減
特に、上部調整池と排水口の周りは、視察時点では、周りの自然と一体となっており、工事の影響は見られませんでした。排水口付近では、新たにサンゴも育ってきておりました。今後、この技術が原子力と組み合わせることによって、より効率的なエネルギーの利用が可能になるのではないでしょうか。