フランス南部の港町マルセイユから車で約1時間、高速道路を降りたら、既にITER本部のあるカダラッシュに到着しました。緑豊かな田舎の中にポツンと事務棟が佇んでおり、人類の未来を担うエネルギーを開発中とは想像もつかない場所でした。
私たち一行は、ちょうどITER本部の事務棟が完成し、間借りしていた事務所からの引っ越しの最中訪れることとなりました。まだ、エレベーターや窓、壁、トイレとあちこちに整備中の場所があり、これからここで本格的に人類の未来を切り開いていく取り組みが行われると思うと、その創世記の現場に立ち会っているような思いでした。
10月17日午前10時、私たち一行は、ITER機構の最高責任者である、本島理事長に出迎えられました。
まずは、ITER計画の基本的な説明をいたします。
○ITERとは何?
・トカマク方式の核融合実験炉
・強い磁場により1億度のプラズマを発生させ核融合反応を起こす
・入力したエネルギーの10倍のエネルギーを生み出す
・核融合商業炉を作るための実験炉
・燃料となる重水素と三重水素は、海中に無尽蔵
核融合を起こすためには、1億度のプラズマを発生させ、それを閉じ込め、継続させなくてはならない。それが可能かどうかを実験する実験炉なのです。
2005年6月28日、ITERに参加している国々は、全会一致で、ITERを南フランスのカダラッシュへの建設に合意
2006年11月21日、パリでITER協定を署名
2007年10月24日、ITER機構発足
2010年7月28日から実験炉の建設が始まりました
実験炉はフランスに建設されますが、それと並行して、日本の青森県、六ヶ所村に実験炉建設をサポートする拠点が置かれています。
それが、「幅広いアプローチ(BA)活動」と呼ばれるものです。
○では、幅広いアプローチ(BA)活動とは?
・ITER計画を補完、支援しながら、将来建設される核融合商業炉の原型炉に必要な技術基盤を確立するための先進的研究開発を行う
・国際核融合エネルギー研究センター事業は、原型炉の概念設計、研究開発、ITERなどの実験の遠隔操作やシミュレーション研究を行う。そのためにITER専用のスーパーコンピューターが、2012年1月から運用開始
・国際核融合材料照射施設の工学実証及び工学設計活動は、原型炉に必要な高強度材料の開発を行う施設の設計、建設への取り組みを行い、材料の照射実験を行うための原型炉加速器は2016年に完成予定
・サテライト・トカマク計画は、日本の臨界プラズマ試験装置JT-60を超伝導化(JT-60SA)し、ITERでの実験を補完する実験を実施し、原型炉に求められる安全性、信頼性、経済性のデータを獲得する。JT-60SAの運転開始は2019年の予定
本島理事長は、ITER機構の現状と現場の説明をしてくれました。
2007年理事会で、コストやスケジュールといったベースラインが承認されました。
3.11やヨーロッパの経済危機を乗り越え、欧州議会は、€13億の追加予算の配分に合意してくれ、今年4月トカマク耐震ピットに、439本の免震パッドが設置され、実験炉建設の基盤が完成しました。1本あたり2000tの荷重を支えるそうです。
3.11後、ストレステストが行われ、最大の事故に対するセーフティーマージンが見直され、様々な改良が加えられることとなります。
カテゴリー4の事故は、安全を確保したうえで、施設の再使用が可能と設定されており、これに対して耐性を50%アップしました。
カテゴリー5では、装置が壊れることを想定して、床厚を1.5mとし、M7の直下型地震にも耐えられるコンクリートの強体に変えることとしました。
また、ASNの総裁が、検査に来て、虫眼鏡で見ないとわからないような小さなクラックを指摘され、修正。されに免震構造の基準をアップし、20億円の追加予算が必要となりました。
ここカダラッシュでは、3000人が建設に従事し、建設終了後は、地元で働けるよう支援もしているそうです。
2011年には、土木工事の92%、機械分野では、28%の進捗率。
建設が延期されている分、資材費が上昇、さらに、改良のためのコスト増に悩まされています。
ITERで得られた成果は、各国で活かされます。
そして、そのためにも、人材育成が重要です。エネルギー問題は、5年先を見ているようではいけません。467億円もの資金が地元カダラッシュの県や市に投入され、道路の改修が進められ、国際学校の整備が行われました。現在、ITER職員の子供たちが約240名通っており、残りは、地元の子供たちです。
今回の福島の事故でも、東京電力の技術者がどのような教育を受けてきたのかを検証すべきだと訴えておりました。
ITERには、3つの利点があります。
1. ウランは使用しない
2. 燃料供給を停止すると核融合反応は瞬時に止まる
3. 三重水素は不拡散物質ではない
ITER計画が成功すれば、次は、発電に向けた商業炉開発です。
これは、勿論、各国で取り組むことになります。
ITERの部品は、各国で研究し、発注し、物納させるため、各国に技術と知的所有権が残り、それを商業炉に生かすこととなります。
特に、中国は、必死です。大学に学部を作り、人材育成し、将来に備えています。人材育成のためには、時間とコストがかかるのです。しかし、最後は、人材が成否のカギを握っているのは、間違いありません。
日本の未来のエネルギーを支える核融合炉。ITERが成功したのちには、各国での商業炉のための原型炉建設が始まります。そして、日本では、青森県六ケ所村がその第一の候補地となるのではないでしょうか。是非、未来のために、日本政府と、青森県が共に協力して、この事業を積極的に推進してくださることを切に願います。
2020年11月の初プラズマを目指します!